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Dr.武藤の「ちょっとドキドキ在宅医療」⑫~在宅看取り~
2022-05-10
今年の冬はことのほか寒かった。ようやく寒さが緩んで春の日差しの中、在宅診療を行えるようになった。春の陽気に誘われて週一回の訪問診療が楽しみだ。著者は横須賀市の衣笠で在宅訪問診療を行っている。横須賀は海に近いが、ちょっと市街地を離れると緑深い丘陵地帯に出る。坂道を登り、トンネルを抜けると突然、トロロの森のような集落に出会うこともある。
この季節、そうした集落の小高い見晴らしのよい庭先から患者さんを訪問すると、100歳近い寝たきりのおばあさんがベッドの中から片手をあげて無言で歓迎してくれる。開け放された縁側から緑の光が差し込んで、おばあさんのやせ細った白い手も草色に染まっている。そんなおばあさんの手を握りながら「また来ましたよ」と声をかける。
また102歳の生け花の先生のお宅にも訪問している。30段近い階段を上った先の家に息子さんとお花の先生は暮らしている。このおばあさんは、いつもベッドの上で正座して迎えてくれる。難聴でほとんど耳が聴こえないが、いつもやせた手を差し伸べてくれる。ガラス窓から差し込む静かな午後の日差しの中の姿はまるで観音さまのようだ。ありがたく手を握らせていただく。
先日は初めての在宅看取りもさせていただいた。80歳台の肝硬変のため黄疸もでてお亡くなりになったおじいさんだ。ベッド上で真正面を向いて静かに横たわる端正な姿はブロンズ像のようだった。死亡確認のあと丁寧に手を合わせてお祈りした。
在宅でみるお年寄りはみなさん安らかに老い、亡くなっていく。自然の時の流れに身を任せ、終わりを迎えることができるのが在宅の良いところだろう。在宅での看取りが当たり前の世の中にしたいものだ。

著者
武藤正樹
社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ相談役
社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ理事 よこすか地域包括ケア推進センター長 1949年神奈川県川崎市生まれ。1974年新潟大学医社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ理事 よこすか地域包括ケア推進センター長 1949年神奈川県川崎市生まれ。1974年新潟大学医学部卒業、1978年新潟大学大学院医科研究科修了後、国立横浜病院にて外科医師として勤務。同病院在籍中1986年〜1988年まで当時の厚生省の留学制度でニューヨーク州立大学家庭医療学科留学。1988年厚生省関東信越地方医務局指導課長。1990年国立療養所村松病院副院長。1994年国立医療・病院管理研究所医療政策研究部長。1995年国立長野病院副院長。2006年より国際医療福祉大学三田病院副院長・国際医療福祉総合研究所長・同大学大学院教授、2013年4月より国際医療福祉大学大学院教授(医療経営管理分野責任者)、2010年より国際医療福祉大学クリニックで外来診療にも携わる。
武藤正樹の著書

