トップコラムDr.武藤のれんけあコラム 連載① ~段取りのよい在宅死~

Dr.武藤のれんけあコラム 連載① ~段取りのよい在宅死~

2021-02-21

まだ私が新潟の田舎の小さな病院にいたときの話だ。のどかな田園に囲まれたこの病院では、ときどき病院の車で外来の婦長さんをつれて患者の家に往診することもあった。 ある夏の晩、在宅で最期を診てほしいといっていた脳卒中で寝たきりのおばあさんの家の家族からの電話がかかってきた。「そろそろばあさんが亡くなりそうだから往診に来てほしい」という。これを聞いて、すぐに婦長さんと二人で患者さんの家をめざして車をはしらせた。初夏の夜風をうけながら、カエルの鳴き声がする真っ暗な田んぼ道を車を走らせていると、うしろから猛スピードで追い越していていく車がある。「あれ、同じ家にむかっているのかな?」と思っていると、やっぱり患者さんの家の前でその車はぴたりとまった。そして颯爽と車を下り立ったのは、なんと袈裟すがたの若いお坊さんではないか! あわてて、われわれも往診かばんをかかえて家にかけこむと、くだんのお坊さんは集まってきた村の人たちにてきぱきと指図して、段取りよく祭壇を作っているではないか。そして患者さんはといえば、すでに顔に白い布をあてられて布団の中に横たわっている。 「あの・・・、まだ死亡確認をしていないので、させてください。」とおそるおそるお通夜の準備に忙しい家族に声をかけた。そして祭壇作りにあわただしく立ち働いているお坊さんを横目にしながら、患者さんの瞳孔をみて、胸に聴診器をあてて死亡を確認した。そして、お坊さんのお通夜のお経を、家族や村の人たちと一緒に聞いて病院に戻ってきた。それにしてもこんなに段取りのよい在宅看取りも珍しいと思った。とくにお坊さんに先を越されたのは、はじめての経験だった。
武藤正樹

著者

武藤正樹

社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ相談役

社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ理事 よこすか地域包括ケア推進センター長 1949年神奈川県川崎市生まれ。1974年新潟大学医社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ理事 よこすか地域包括ケア推進センター長 1949年神奈川県川崎市生まれ。1974年新潟大学医学部卒業、1978年新潟大学大学院医科研究科修了後、国立横浜病院にて外科医師として勤務。同病院在籍中1986年〜1988年まで当時の厚生省の留学制度でニューヨーク州立大学家庭医療学科留学。1988年厚生省関東信越地方医務局指導課長。1990年国立療養所村松病院副院長。1994年国立医療・病院管理研究所医療政策研究部長。1995年国立長野病院副院長。2006年より国際医療福祉大学三田病院副院長・国際医療福祉総合研究所長・同大学大学院教授、2013年4月より国際医療福祉大学大学院教授(医療経営管理分野責任者)、2010年より国際医療福祉大学クリニックで外来診療にも携わる。

武藤正樹の著書

病院経営MASTER VOL 9.1

病院経営MASTER VOL 9.1

れんけあ広場のコラム「ちょっとどきどき在宅医療」が一冊に!在宅医療の実践物語。

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