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Dr.武藤の「ちょっとドキドキ在宅医療」⑧~お菓子屋の小町むすめ~
2021-12-21
訪問診療で通っているお菓子屋さんの2階に、寝たきりのN子さんがいる。目鼻立ちも整っていてさぞかし若いときは美人だったのだろう。世話をしている実の娘さんに聞くと、「お菓子屋の看板娘で、町内では小町むすめとよばれていたそうですよ」と言う。「若いときの写真を見たいですね」というと、「それがね・・、お母さんがまだ元気なころアルバムから自分の写真をみんな引き抜いて、捨ててしまったんですよ」と言う。
「どうして?」と聞くと、「理由は分からないのですけれど・・・ 気に入らなかったでしょうかね?」、「何があったんでしょうね」という。本人に聞いて見たいけれど、本人は鼻からチューブが入っていて言葉を発することもない。
そんな昔の小町むすめさんの背中の褥瘡を看護師さんと処置して、「よいしょ」と身体をもとの位置に戻すと、急にそれまで閉じていた目を「キッ」と見開いて睨まれた。娘さんが「あら、お母さん聞こえていたのかしら?」と言ってにこやかに笑った。「聞こえていましたか?」と聞くと、何も答えず目を閉じられた。90歳近いお菓子屋の小町むすめのN子さんにも、若いときの言葉にはしたくない「思い出」が心の中を駆け抜けたのだろうか?
診療を終わって部屋を出て、暗くて狭い階段を下りて階下のお菓子作りの工房のわきの廊下を通った。そのとき工房で息子さんが作っていた桜餅の香りが廊下に流れた。12月の寒い日だというのに、なんとなく春めいた風が吹き抜けたような気がした。

著者
武藤正樹
社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ相談役
社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ理事 よこすか地域包括ケア推進センター長 1949年神奈川県川崎市生まれ。1974年新潟大学医社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ理事 よこすか地域包括ケア推進センター長 1949年神奈川県川崎市生まれ。1974年新潟大学医学部卒業、1978年新潟大学大学院医科研究科修了後、国立横浜病院にて外科医師として勤務。同病院在籍中1986年〜1988年まで当時の厚生省の留学制度でニューヨーク州立大学家庭医療学科留学。1988年厚生省関東信越地方医務局指導課長。1990年国立療養所村松病院副院長。1994年国立医療・病院管理研究所医療政策研究部長。1995年国立長野病院副院長。2006年より国際医療福祉大学三田病院副院長・国際医療福祉総合研究所長・同大学大学院教授、2013年4月より国際医療福祉大学大学院教授(医療経営管理分野責任者)、2010年より国際医療福祉大学クリニックで外来診療にも携わる。
武藤正樹の著書

