トップコラムDr.武藤の「ちょっとドキドキ在宅医療」⑯ ~我が国でもケアラー法の制定を!~

Dr.武藤の「ちょっとドキドキ在宅医療」⑯ ~我が国でもケアラー法の制定を!~

2022-08-31

横須賀で訪問診療に週に一回出かけている。最近気になるのは在宅のご主人に付き添う妻や、両親に付き添って介護している娘や息子さんなどケアラー(家族介護者)のことだ。寝たきりの両親の介護をしている実の娘さんなどは、訪問するといつも玄関脇の部屋で横になっている。我々が玄関に入ると、起き上がって両親の部屋へ案内してくれる。日頃の介護の疲れがたまっているのだろう。 また先週も寝たきりの両親を在宅で介護している50代の息子さんや、母親を介護している息子さんの家で話しをする機会があった。お二人とも仕事と介護の両立は大変だと言っていた。在宅で寝たきりの両親を介護している男性はほぼ介護にかかり切りになって、仕事もあきらめたという。 こうしたケアラーの実態を調査したNPO法人介護者サポートネットワークセンター・アラジンでは、1700人のケアラー調査を2010年に行った。調査ではケアラー自身が望んでいる支援を聞いている。その回答は以下であった。トップはケアラー本人の急な入院時の被介護者の緊急レスパイ入所などのサービスの必要性である。次いで在宅介護者手当や年金受給要件に介護期間を加えてほしいなど経済的な支援、そしてなによりも専門職や行政職員のケアラーに対する理解を望んでいる。そして仕事と介護の両立支援等を希望している。 こうしたケアラー支援で進んでいるのが英国だ。英国では、1995年にいち早くケアラー法が制定された。同法では、ケアラーも支援を受ける権利を有すること、そして自治体はケアラーの困難をアセスメントし、支援する義務を有するとしている。このため英国ではケアラーセンターを地域に設けている。 2015年の夏休み、我々はこうしたケアラーセンターの一つを英国に訪ねた。訪問したのはロンドンのサットン・ケアラーセンターで、NPO支部団体として設立され老舗のセンターで、職員20名、ボランテイア55名という陣容だ。活動内容は、レスパイトケアやケアラーの権利など情報提供サービス、ケアラー同士のグループ活動、カウンセリングサービスなどの支援、介護方法などの研修やペアレントケアラーのワークショップなど。さらに経済的支援ではケアラーのアセスメント支援や、ケアラー年金、障害者年金の受給支援などである。またヤングケアラーの学習や就労支援も行っていた。 一方、私の場合のケアラー支援といえば、訪問診療の際にケアラーの体調を聞いたり、血圧を測ったりして、「介護で無理をしないで体に気を付けてくださいね」というのが精いっぱいだ。日本でも制度としてケアラーの権利を守るケアラー法が必要なのではと思う。
武藤正樹

著者

武藤正樹

社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ相談役

社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ理事 よこすか地域包括ケア推進センター長 1949年神奈川県川崎市生まれ。1974年新潟大学医社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ理事 よこすか地域包括ケア推進センター長 1949年神奈川県川崎市生まれ。1974年新潟大学医学部卒業、1978年新潟大学大学院医科研究科修了後、国立横浜病院にて外科医師として勤務。同病院在籍中1986年〜1988年まで当時の厚生省の留学制度でニューヨーク州立大学家庭医療学科留学。1988年厚生省関東信越地方医務局指導課長。1990年国立療養所村松病院副院長。1994年国立医療・病院管理研究所医療政策研究部長。1995年国立長野病院副院長。2006年より国際医療福祉大学三田病院副院長・国際医療福祉総合研究所長・同大学大学院教授、2013年4月より国際医療福祉大学大学院教授(医療経営管理分野責任者)、2010年より国際医療福祉大学クリニックで外来診療にも携わる。

武藤正樹の著書

病院経営MASTER VOL 9.1

病院経営MASTER VOL 9.1

れんけあ広場のコラム「ちょっとどきどき在宅医療」が一冊に!在宅医療の実践物語。

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