トップコラムDr.武藤の「ちょっとドキドキ在宅医療」①~経鼻胃管交換~

Dr.武藤の「ちょっとドキドキ在宅医療」①~経鼻胃管交換~

2021-05-15

昨年7月から横須賀にある日本医療伝道会衣笠病院で、外来や老健、そして週1回の在学の訪問診療のお手伝いをしている。在宅の訪問診療は初めての経験なので、看護師さんに助けられながらの在宅医療1年生の「ちょっとドキドキ在宅医療」だ。このちょっとドキドキ在宅医療を見ていくことにしよう。第一回は経鼻胃管交換だ。  在宅診療で寝たきりで意思疎通もできない高齢者の胃管交換を行っている。そもそも患者さんと意思疎通ができれば「ごっくんと飲み込んでください」と言いながら、患者の喉頭の動きのタイミングに合わせて胃管を挿入することはできる。しかし嚥下のオーダーも入らない仰臥位の高齢の患者に胃管を挿入すれば、気管へ胃管が誤って挿入されることが起こりえる。これを防ぐには、メンデルソン手技といってファーラー位や仰臥位やの患者の喉頭を術者の手で挙上させて、食道の入口部を開かせて胃管を挿入する方法もあるが、かなりの熟練が必要だ(図1)。 日本医療安全機構 医療事故の再発防止に向けた提言(第13号)より また病室だったら喉頭内視鏡を用いて直視下で食道入口部を確認しながら行う方法もあるが、在宅に喉頭内視鏡を持ち込むのが大変だ。そして在宅ではなんとか胃管をスムーズに挿入してからの胃管の位置確認も大変だ。胃管に注射器から空気を送り込んで、上腹部の気泡音を聴取しても安心できない。気泡音が当てにならないからだ。 2015年の日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業報告書では、胃管誤挿入があった56例のうち40例が、気泡音の聴取により挿入できたと判断された事例であったという。また胃の内容物を吸引して胃液のpH測定を行うというpH測定法もある。吸引した液体のpHが5.5未満(酸性)であれば胃内に挿入されている可能性が高い。しかし、高齢者では胃酸分泌が低下していたり、また制酸剤を投与している患者では、胃液のpHが5.5以上になる可能性もある。また気管内への誤挿入を気管内のCO2をCO2検知器でチェックする方法もあるが、装置が高額でそうそう在宅に持ち込めない。 さらに色素法といって、胃管交換時、交換前にブルーの色素液を胃内に注入し、胃管交換後に注入した色素液が吸引されるか否かを見る確認の方法もある。しかしこの方法は胃管の自然抜去の後の交換時には使えない。 また病室だったらレントゲンで位置確認をする方法もあるが、胃管交換のたびに在宅の患者を病院に連れてくるわけにもいかない。たとえレントゲンで確認しても腹部レントゲンだけでは胃管が胃壁をやぶって胃外に穿破しているかどうかの確認にはならない。というわけで在宅の寝たきりの患者の胃管交換はストレスだ。こうしたことから日本医療安全調査機構では、胃管挿入事故防止に以下の提言を行っている。 提言1 胃管挿入において、嚥下障害、意思疎通困難、身体変形、挿入困難歴などがある患者は誤挿入のリスクが高いことを認識する。 提言2 誤挿入のリスクが高い患者や挿入に難渋する患者では、可能な限りX線透視や喉頭鏡、喉頭内視鏡で観察しながら実施する。 提言3 気泡音の聴取は胃内に挿入されていることを確認する確実な方法ではない。 提言4 胃管挿入後は重篤な合併症を回避するため、初回は日中に水(50~100ml程度)を投与する。 提言5 誤挿入のリスクが高い患者はSpO2のモニタリングを行うことが望ましい。 在宅で経鼻胃管の交換には十分な注意が必要だ。
武藤正樹

著者

武藤正樹

社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ相談役

社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ理事 よこすか地域包括ケア推進センター長 1949年神奈川県川崎市生まれ。1974年新潟大学医社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ理事 よこすか地域包括ケア推進センター長 1949年神奈川県川崎市生まれ。1974年新潟大学医学部卒業、1978年新潟大学大学院医科研究科修了後、国立横浜病院にて外科医師として勤務。同病院在籍中1986年〜1988年まで当時の厚生省の留学制度でニューヨーク州立大学家庭医療学科留学。1988年厚生省関東信越地方医務局指導課長。1990年国立療養所村松病院副院長。1994年国立医療・病院管理研究所医療政策研究部長。1995年国立長野病院副院長。2006年より国際医療福祉大学三田病院副院長・国際医療福祉総合研究所長・同大学大学院教授、2013年4月より国際医療福祉大学大学院教授(医療経営管理分野責任者)、2010年より国際医療福祉大学クリニックで外来診療にも携わる。

武藤正樹の著書

病院経営MASTER VOL 9.1

病院経営MASTER VOL 9.1

れんけあ広場のコラム「ちょっとどきどき在宅医療」が一冊に!在宅医療の実践物語。

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