トップコラムちょっとドキドキ在宅医療~マンハッタンの訪問看護~

ちょっとドキドキ在宅医療~マンハッタンの訪問看護~

2024-10-07

前回のブルックリンの訪問診療に続いて、著者がニューヨークに留学時代に訪れたマンハッタンの訪問看護事業所を紹介しよう。それはニューヨークの訪問看護事業所の中でもひときわ大きなニューヨーク訪問看護サービス(VNSNY :Visting Nurse Service of New York)だ。VNSYの歴史は1893年にニューヨークの貧困層の結核患者のために二人の若い看護師がはじめた小さな訪問看護事業所からスタートする。以来130年、いまではニューヨーク市内から近郊までカバーするニューヨーク最大の規模の事業所に成長した。現在のVNSNYは、看護師数はなんと2500人、そしてリハビリセラピスト700人、ソーシャルワーカ600人、ヘルパー6000人、栄養士140人あまりを擁していて、毎日3万件の訪問を行っている。 さて訪問看護師に求められるのはいつの時代でも患者宅を素早く訪れるための機動性である。このためVNSNYの創始者の一人のリリアンは、1890年代のマンハッタンのビルの屋上から屋上へと近道をメリーポピンズのように移動して患者宅を訪問したという(写真)。さて現在のVNSNYの看護師さんの移動の武器は自転車である。路上駐車がままならいマンハッタンでは自転車が大活躍している。 写真 VNSNYの創始者リリアンが、近道をするためマンハッタンのビルの屋上から患者宅を訪問 さて、米国では訪問看護の質評価が最近の話題だ。先に紹介したVNSNYも訪問看護サービスの質評価と改善活動に力をいれている。一般にサービスの質評価と改善活動はストラクチャー、プロセス、アウトカムの評価指標と、その指標改善からなる。訪問看護の場合、プロセス評価は糖尿病ケア、創傷ケア、心不全ケアなど疾病別ケアマネジメントの評価である。それぞれのケアマネジメントが文書化されているかどうかや、実際のケアをモニターすることで評価する。またアウトカム評価も行われていて、その指標としては「急性期病院への入院率」や「日常生活動作の改善率」が用いられている。 たとえば「急性期病院への入院率」について、その評価と改善活動をVNSNYで実際に行われた例について見てみよう。まず入院率の目標設定は以下のように行う。「在宅ケア患者の入院率を5%下げる」。入院医療費が高騰しているニューヨークでは、これだけで米国の公的保険のメディケア15 億ドル節約の見込みとなるという。 実はVNSNYで調べてみると退院直後14日以内の再入院が多いことが分かった。理由は以下である。退院直後に患者(家族)、病院、開業医、訪問看護事業所の4者のケアの方向性がばらばらで、しかも相互に連携がとれていないために再入院が多い事が分かった。このため退院後14 日間において訪問看護師が関係者をコーディネートして、患者が確実に服薬できるような環境を整えたり、退院後14日以内の期間に医師の診察と入院のリスク・アセスメントをして、場合によって訪問の間隔を短くしていくことや遠隔医療(テレヘルス)でバイタル管理を密に行うことを実施した。これらの活動によってVNSNYでは、目標の「在宅ケア患者の入院率を5%下げる」ことに成功したという。 さてVNSNYを思い出すたびに、ヘルメットをかぶって颯爽と自転車でマンハッタンの路上に飛び出していく訪問看護師さんの姿が目に浮かぶ。 社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ理事 よこすか地域包括ケア推進センター長  1949年神奈川県川崎市生まれ。1974年新潟大学医学部卒業、1978年新潟大学大学院医科研究科修了後、国立横浜病院にて外科医師として勤務。同病院在籍中1986年〜1988年まで当時の厚生省の留学制度でニューヨーク州立大学家庭医療学科留学。1988年厚生省関東信越地方医務局指導課長。1990年国立療養所村松病院副院長。1994年国立医療・病院管理研究所医療政策研究部長。1995年国立長野病院副院長。2006年より国際医療福祉大学三田病院副院長・国際医療福祉総合研究所長・同大学大学院教授、2013年4月より国際医療福祉大学大学院教授(医療経営管理分野責任者)、2010年より国際医療福祉大学クリニックで外来診療にも携わる。 Dr.武藤の在宅医療にまつわる経験エピソードをコラムにして配信!
武藤正樹

著者

武藤正樹

社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ相談役

社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ理事 よこすか地域包括ケア推進センター長 1949年神奈川県川崎市生まれ。1974年新潟大学医社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ理事 よこすか地域包括ケア推進センター長 1949年神奈川県川崎市生まれ。1974年新潟大学医学部卒業、1978年新潟大学大学院医科研究科修了後、国立横浜病院にて外科医師として勤務。同病院在籍中1986年〜1988年まで当時の厚生省の留学制度でニューヨーク州立大学家庭医療学科留学。1988年厚生省関東信越地方医務局指導課長。1990年国立療養所村松病院副院長。1994年国立医療・病院管理研究所医療政策研究部長。1995年国立長野病院副院長。2006年より国際医療福祉大学三田病院副院長・国際医療福祉総合研究所長・同大学大学院教授、2013年4月より国際医療福祉大学大学院教授(医療経営管理分野責任者)、2010年より国際医療福祉大学クリニックで外来診療にも携わる。

武藤正樹の著書

病院経営MASTER VOL 9.1

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