トップコラムDr.武藤の「ちょっとドキドキ在宅医療」⑩~在宅のモンスター家族~

Dr.武藤の「ちょっとドキドキ在宅医療」⑩~在宅のモンスター家族~

2022-02-25

1月28日、埼玉県ふじみ野市の民家で、訪問診療医が散弾銃で撃ち殺されるという痛ましい事件が起きた。前日に死亡した高齢女性の弔問に訪れた訪問診療の医師と理学療法士を、女性の息子が散弾銃で撃ち、医師が死亡し、理学療法士も重症を負ったという事件だ。医師は死亡した女性の在宅の担当医だったという。母親の死をめぐってその息子と医師との間にトラブルがあったと考えられる。事件が起きた日の午後、私も訪問診療の担当日だったので、身につまされた。  訪問診療や訪問看護で、患者や家族の無理難題、クレームに加え暴言・暴力が深刻な問題になっている。2008年度の「在宅ケアにおけるモンスターペイシェントに関する調査」(神戸常盤大学短期大学部看護学科、武ユカリ)では、全国の200か所の訪問看護ステーションの調査を行っている。その調査によると回答者の訪問看護師の7割が利用者や家族の「理不尽な言動」、「感情的な言動」を経験している。また「悪意・敵意がある言動」は4割、「身体的暴力」は16%が経験している。身体的暴力では「つねる」、「はたく」、「蹴る」、「噛む」、「殴る」の順で多かった。場所は利用者の居宅で、複数回繰り返されることが多く、その期間は平均3年に及んだ。訪問看護師の対応としては激高している当事者に落ち着くように話したり、身体的暴力についてはやめるように言ったりするのが4割以上で、訪問看護師が当事者に対して苦慮しながらもなんとか対応しようとしている姿浮かび上がった。  実は、こうしたモンスターペイシェントや家族の経験は私にもある。長野の国立病院にいたころ、医療安全の一環で医療クレームの担当をしていたことがある。一度、超音波検査の検査技師に対する若い女性からのクレームで、患者さんのお宅に検査技師長と訪ねたことがある。ちょうどお花見の季節で、家でお酒を飲んでいた父親が玄関先で「娘に何をしたんだ~!」と激高して、ゴルフクラブを振り回されて、ほうほうのていで逃げ帰ったことがある。  またある時は医事課へのクレームで医事課の職員と患者宅を訪問したことがある。玄関先に猛犬のドーベルマンがいるお宅で、通された応接間の床の間にはなんと日本刀が飾ってある。この時はさすがにドキドキして、謝罪もそこそこで逃げ帰ってきた。  こうした経験は医療の現場ではさほど珍しくはない。今回の事件もその氷山の一角と言えるだろう。決して他人事ではない。亡くなられた在宅医療に熱心に取り組んでいた鈴木純一医師のご冥福を祈るばかりだ。
武藤正樹

著者

武藤正樹

社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ相談役

社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ理事 よこすか地域包括ケア推進センター長 1949年神奈川県川崎市生まれ。1974年新潟大学医社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ理事 よこすか地域包括ケア推進センター長 1949年神奈川県川崎市生まれ。1974年新潟大学医学部卒業、1978年新潟大学大学院医科研究科修了後、国立横浜病院にて外科医師として勤務。同病院在籍中1986年〜1988年まで当時の厚生省の留学制度でニューヨーク州立大学家庭医療学科留学。1988年厚生省関東信越地方医務局指導課長。1990年国立療養所村松病院副院長。1994年国立医療・病院管理研究所医療政策研究部長。1995年国立長野病院副院長。2006年より国際医療福祉大学三田病院副院長・国際医療福祉総合研究所長・同大学大学院教授、2013年4月より国際医療福祉大学大学院教授(医療経営管理分野責任者)、2010年より国際医療福祉大学クリニックで外来診療にも携わる。

武藤正樹の著書

病院経営MASTER VOL 9.1

病院経営MASTER VOL 9.1

れんけあ広場のコラム「ちょっとどきどき在宅医療」が一冊に!在宅医療の実践物語。

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